本研究は、光化学治療(Photodynamic therapy:PDT)にともなうマウス悪性腫瘍細胞内でのストレス蛋白質(Heat Shock Protein:HSP)の産生を免疫組織学的手法と分子生物学的手法を用いて、明らかにすることを目的としたものであったが、年度内には分子生物学的手法を含む全ての実験計画は達成できなかった。本研究では、多くの種類が知られているHSPの中で、HSP72を用いて実験を行った。文献的にはHSP72は細胞に為害作用が及んだ際に、細胞質内で急速に産生され、分子生物学的手法による検出では数時間で検出されはじめる。本研究では、PDT施行後、4、6、8、12、24時間後にマウスを屠殺し、腫瘍を摘出、ホルマリンにて固定後、標本を作製し、HSP72のモノクローナル抗体を用いて、ABC法にて免疫染色を行った。その結果、PDT後8時間以降の標本において、細胞膜付近に陽性反応を認める場合があった。PDTの殺細胞効果は、光化学反応にともない発生した活性酸素による、細胞膜への障害作用にもとずくと言われている。文献的にも標本上でHSPを染色したものは少ないが、それらの報告では細胞質に陽性反応を認めている。従って、本研究での結果は、障害を受けた細胞膜付近に出現したHSP72を検出したものとも考えられが、染色結果の再現性に乏しく、PDTによる反応を検出したと判断するに足るまでには至らなかった。本年度は、免疫組織学的検討を中心に行い、残念ながら満足すべき結果は得られなかったが、今後もさらに染色結果の再現性を向上させることを目標に実験を続けるとともに、今年度の結果をもとに、細胞を分画毎に回収し、分子生物学的手法を用いてHSP発現の有無を検索し、光化学治療がストレス蛋白産生に及ぼす影響について明らかにする予定である。
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