癌の生物学の進展にともない、癌化学療法の新しい分子標的としてトポイソメラーゼ、C-キナーゼ、チロシンキナーゼ、P-糖蛋白質、チューブリンなどが注目されている。チューブリンの脱重合阻害作用を示す化合物は、DNA複製を阻害する多くの抗癌剤が効力を失った癌に対しても有効であると期待されている。そこで本研究では、海洋生物、微生物、植物などを材料とし、チューブリンに対する重合阻害あるいは脱重合阻害活性を指標としてスクリーニングを行い、新しい抗腫瘍物質の探索を行った。以下に本年度の研究成果の概要を報告する。 薬用植物、海洋動物、微生物の抽出物について、ブタ脳から調製した微小管蛋白質を用いて、チューブリン脱重合阻害活性を指標としてスクリーニングを行った。その結果、北海道産イチイ(Taxus cuspidata)より数種のタキサン骨格をもつ新規ジテルペン化合物(タキサスピン類)を分離した。このうちのタキサスピンDにチューブリン脱重合阻害活性が認められ、その強さは抗癌剤タキソ-ルの1/2〜1/3程度であった。これまでの構造活性相関研究からでは、タキソ-ルのもつフェニルイソセリン基やオキセタン環部分が活性に重要であると考えられていたが、タキサスピンDにはどちらの官能基も含まれておらず、このようなタキサン化合物に強い活性が認められたのは興味深い。今後さらに新たな活性物質のスクリーニングを行うとともに、活性発現に重要な構造因子の特定を行いたいと考えている。
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