σ対称分子であるジエチルアミノマロネートと光学活性バリンから誘導したキラルなビスラクチムエーテルを原料とし、種々の塩基あるいはルイス酸-アミン系試薬を用いてエナミネートあるいはエノレートに導き、種々のアキラルな親電子反応剤との不斉アルキル化反応や不斉アルドール反応を実施した。その結果、ビスラクチムエーテル環の5位の立体化学を反映して、立体選択的に反応が進行した。冬虫夏草菌の代謝産物から単離された免疫抑制物質ISP-Iの不斉全合成を念頭に置いた光学活性アルデヒド((R)-(+)-乳酸メチルエステルより合成)との二重キラル認識不斉アルドール反応は、スズ(II)トリフラート-N-エチルピペリジン系試薬あるいはマグネシウム(II)ブロミド-トリエチルアミン系試薬を使い分けることによりそれぞれ異なる不斉識別下に進行した。さらに、各々の立体選択性を合理的に理解するための異なる反応遷移状態を提出した。 アルキル化反応およびアルドール反応によって得られた生成物は、ジエチルアミノマロネート由来のエステル部分をDIBALによってセリン側鎖に対応するアルコールへと還元し、次いで塩酸酸性条件下加熱還流することによりビスラクチム環の加水分解を行ない目的とするα置換セリン誘導体へと変換した。 本研究期間に得られた以上の研究結果は、プロキラルなσ対称分子であるジエチルアミノマロネートを光学活性セリンカルバニオン等価体として活用する方法論を確立するものであり、本法を重要鍵反応に適用することにより免疫抑制物質ISP-Iの不斉全合成にも成功した。
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