ヒト増殖細胞核抗原(PCNA)の構造機能相関を探索することを目的として、蛋白質工学的手法により作製したヒトPCNA変異体と複製因子C(RFC)およびDNAポリメラーゼδ(polδ)との相互作用を調べた。以下に、本研究によって得られた新たな知見等の成果を示す。 1.PCR法を応用した部位特異的変異法により、ヒトPCNA遺伝子に変異を導入した。標的部位は、出芽酵母PCNAの結晶構造解析から明らかになった(1)C末端近傍の釣針型ループ構造内に位置する酸性アミノ酸クラスター、塩基性アミノ酸、および疎水性側鎖をもつIle255、ならびに(2)リング状構造の内側をプラス電荷で覆っている1分子あたり9残基の塩基性アミノ酸とし、これらを1残基あるいは複数残基同時にアラニンに変換した。これらすべてのPCNA変異体は、天然型PCNAと同様に、T7RNAポリメラーゼ系により大腸菌で大量発現させ、各種カラムクロマトグラフィーにより精製され、培養液1L当たりそれぞれ約30mgのサンプルとして調製された。 2.RFCおよびpolδとの相互作用を調べたところ、C末端のループ構造はRFCとの相互作用部位であることが示された。特に、Ile255は重要部位であることが明らかにされた。さらに、これらの部位はpolδとの相互作用には関与していないことがわかった。また、リング状構造内側の塩基性アミノ酸を複数残基同時にアラニンに置換した変異体では、RFCとの相互作用は天然型同様であったが、天然型PCNAがもつpolδのDNA合成活性の促進効果に大きな影響を見られた。すなわち、これら塩基性アミノ酸は協調的にDNAと相互作用することが示された。
|