ヒトメンケス病のモデル動物として優れているmlマウスはメンケス病と類似の症候群を呈し、銅分布異常および銅含有酵素の活性低下を示し、生後約16日目で死亡する。このmlマウスの銅分布異常機構、原因蛋白質および原因臓器については全く手がかりが無いのが現状である。そこで、メンケス病の原因解明を目的にmlマウスの組織内に正常細胞を共存させたキメラマウスを作成し、そのマウスの症状や組織中の銅含量および銅含有酵素活性を測定し、以下の結果を得たので報告する。 1.核移植法により、正常マウスとmlマウスからなるキメラ卵(355個)を作成し、この卵を擬妊娠マウスの輸卵管内にもどして52匹の出産児を得た。このうちキメラマウスは13匹であった。 2.13匹のキメラマウスのうち2匹は体重減少を伴ったメンケス病症状を呈し、生後16日および22日に死亡した。残りのキメラマウスは銅治療を行っていないにもかかわらず、重篤なメンケス病症状は示さず、正常マウスと同等の成長を示した。 3.キメラマウスの各臓器における細胞の割合をグルコースホスフェイトイソメラーゼのアイソザイム活性により測定した結果、正常に成長したキメラマウスではすべての臓器において正常マウス細胞とmlマウス細胞からなるキメラであり、その比率は約1:1であった。一方、途中死亡した2匹のキメラマウスでは共通して肝臓がmlマウス細胞のみで構成されていた。 4.正常に成長したキメラマウスの各組織における銅含量および銅含有酵素活性(セルロプラスミン、チトクローム-c-オキシダーゼ、Cu-Zn-スーパーオキシドジスムターゼ)を測定した結果、heterozygoteと同等の値を示した。 以上、キメラマウスの作成によりメンケス病のcritical tissueの一つとして肝臓が示唆された。
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