研究概要 |
高等生物の発生、分化の過程における特異的な遺伝子発現の制御には、染色体上のヘテロクロマチン構造が重要な働きを担っていると考えられているが、その実体の多くは不明である。本研究は、ヘテロクロマチン形成に関与するヒト因子の分離を目的として行った。実験系として、染色体構造とそこに関与する因子に関する知見がある程度蓄積している酵母の代表的ヘテロクロマチン部位であるテロメア部分を用いたところに特徴があると思われる。用いた酵母には、クロモソーム7番上にテロメアDNA配列にはさまれたマーカー遺伝子URA3が人工的に挿入してある。この酵母にヒトcDNAライブラリー発現プラスミドを導入し、URA3遺伝子の発現抑制を指標としてテロメアDNA配列周辺のヘテロクロマチン構造に影響を与える因子をコードするcDNAプラスミドを検索した。現在までに約20,000の独立のプラスミド導入コロニーのFOA耐性(URA3遺伝子の発現抑制)形質を検討し、約150の候補を得た。そのうち今回はURA3遺伝子の発現抑制が可逆的、或いは部分的なもの、すなわち-URAプレートでも生育が可能なものに焦点をしぼったところ、最終的に5つの候補を得た。これら5つの候補からプラスミドDNAを回収し、FOA耐性形質がcDNA由来かどうかを確認したところ、残念ながら酵母細胞内のDNAの内在性変異に基づくものと考えられた。今後はこの検索を続けると同時に、URA3遺伝子の発現が導入cDNAにより非可逆的に抑制される可能性も考え、FOA耐性で-URAプレート上で生育が不可能であった残りのコロニーについても検討を加える予定である。
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