腫瘍壊死因子(TNF)は、ある種の腫瘍細胞に対して、アポトーシスと呼ばれる特徴的な死を引き起こす。私はこのTNFのアポト-ティックな作用に対して、感受性の高いマウス繊維芽肉腫由来のガン細胞L929よりTNF耐性となった変異株を複数単離し、その性状解析を行ってきた。その結果、TNF耐性株のうちのいくつかのもので、細胞質のホスホリパーゼA_2の発現量が低下しており、これがTNF耐性獲得の原因となっていることがわかった。さらに、本年度、細胞周期をS期に同調する薬物が、これらの細胞のTNF感受性を著しく上昇させることを見出した。このことより、ホスホリパーゼA_2を介する情報伝達系が、細胞周期調節系と連関して細胞をアポトーシスへと誘導している可能性が考えられる。近年、細胞周期調節に関わる分子が、アポトーシス誘発にも関わることを支持するいくつかの報告がなされている。こうした分子の一つに癌抑制遺伝子p53が挙げられる。TNFはL929細胞に対しては、p53の発現を継時的に誘導したが、ホスホリパーゼA_2の発現が低下しているTNF耐性株のうち、一部のものではp53の発現誘導が低下していたが、いくつかの耐性株では、親株L929と同様にTNFによるp53の発現誘導が認められた。このことから、p53の発現誘導の消失がTNF耐性の原因となっているわけではないことが示唆される。この他の細胞周期調節に関わる諸分子の性状についても、さらに検討を深めていきたい。また、TNF同様にアポトーシス誘発能を有するFas抗体の作用について検討したところ、Fas抗体は上記のTNF耐性株に対して、親株L929に対してと同様に、著しく、アポトーシスを引き起こした。このことからFas抗原とTNF受容体は、異なる情報伝達系を介して、細胞をアポトーシスへと導いていることが明らかとなった。
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