私は、以下に記述するように、新しい位置選択的ジスルフィド結合形成法を開発し、これを用いて2種の抗HIV活性ペプチドの誘導体を数種類合成し、構造活性相関研究を行った。 1.S-保護システインの脱保護法(トリフルオロメタンスルホン酸銀法)と水溶液中のジメチルスルホキシド酸化法の組み合わせによるジスルフィド形成反応を開発し、ペプチド中のS-Acm保護システイン残基が数時間で定量的にシスチンに変換されることを見い出した。本研究では、この実験条件を詳細に検討し最適化を行い、また、空気酸化法とこのトリフルオロメタンスルホン酸銀-ジメチルスルホキシド法の組み合わせを、位置選択的ジスルフィド架橋形成法に応用し、その有用性について他の方法と比較検討した。 2.次に天然のペプチド、分子内に2本のジスルフィド結合とトリプトファン、チロシンあるいはメチオニンを含むタキプレシン(カブトガニの血球由来ペプチド)およびエンドセリンの合成に、空気酸化法とトリフルオロメタンスルホン酸銀-ジメチルスルホキシド法の組み合わせによる位置選択的ジスルフィド架橋法を用いた。この際、空気酸化法と、従来用いられているヨード酸化法の組み合わせによる位置選択的形成法を用いた場合と比較し、本法の有用性を確認した。 3.最近、タキプレシン及びポリフェムシンから誘導したT22が天然品の約1000倍の抗HIV活性を有することを見い出した。そこで、この位置選択的ジスルフィド架橋形成法を用いてT22の種々の誘導体ペプチドを合成し、構造活性相関研究を行い、T22の活性発現部位を明らかにした。また、同様に分子内に2本のジスルフィド結合を有する、ブタの白血球由来ペプチド、プロテグリンのジスルフィド異性体を本方法を用いて合成し、天然品のジスルフィド架橋様式を決定した。さらに、本品に抗HIV活性があることを見い出し、構造活性相関研究を行った。 4.本法はアミノ酸置換誘導体等の非天然型ペプチドの合成にも応用可能であることを確認し、2本のジスルフィド結合を有するペプチドの構造活性相関に有用な方法であることがわかった。
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