モデルペプチドとして、中枢性の鎮痛活性を有するロイシンエンケファリン(アミノ酸残基数5個、LE)を選択し、糖を結合させる方法として研究者の所属する研究室において汎用されているシッフ塩基を中間体として利用する方法を用いた。この方法は合成に時間がかかる(約1か月)が、目的物質以外の生成物が少なく、精製が容易にできるという点で優れた方法である。結合させる糖は、ペプチドとの結合後おいても末端にグルコース構造を維持できるセロビオースを選択した。この構造を持つ糖修飾体は未修飾体に比べ消化管透過性の改善が観察された化合物である。合成後、精製した糖修飾LEを^<125>Iで放射標識化し、in situ brain perfusion法を用いて、血液脳関門透過性が改善されているかどうか検討した。糖修飾LEの血液脳関門透過性は未修飾LEの透過性に対して約6割に減少しており、これは、糖修飾により水溶性が増加したためであると考察できた。また、グルコース輸送担体に対する認識性を獲得できたかどうか検討するために、グルコースを同時存在させてその血液脳関門透過性が変化するかどうかの検討も行ったが、その変化は観測できなかった。このことから、グルコース輸送担体に対する認識特性は獲得できていないことが明らかとなった。グルコース輸送担体に対する認識特性を獲得できなかった理由として、ペプチド鎖が長いためであることが考えられたために、アミノ酸残基数を3個にしたtyrosyl-glycyl-glycine(YGG)を用いて同様の検討を行った。その結果、糖修飾YGGは血液脳関門透過は観察されず、また、未修飾YGGの透過性よりも劣ることが明かにされた。このことから、アミノ酸残基数の問題よりも結合させる糖の構造、もしくはペプチドとの結合部位、結合様式が、血液脳関門透過性を決定する因子としてより重要であることが示唆され、小腸と同様の修飾方法では血液脳関門透過性を改善できない可能性が示唆された。
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