Helicobacter pylori(H.pylori)の空胞化毒素(Vac A蛋白)や空胞化毒素随伴蛋白(Cag A蛋白)と消化性潰瘍との関連を検討するため、以下の検討を行なった。すなわち、1995年に当院で分離されたH.pylori150株につき、(1)PCR法によるvac A並びにcag A各遺伝子の分布、(2)抗Cag A蛋白抗体を用いたimmunoblotting法による蛋白レベルでの発現、(3)培養細胞における空胞変性活性、を検索し、疾患(胃・十二指腸潰瘍、慢性胃炎)との関連を検討した。さらに、(4)精製Cag A蛋白を抗原として、ELISA法により患者血清中の抗Cag A蛋白IgG抗体価を測定し、疾患群間で比較検討した。 その結果、1)Cag A蛋白陽性率は全分離株の約8割を示し、cag Aの分布とほぼ一致していた。2)vac Aはほぼ全株に認めたものの、毒素活性を呈したのは約75%であった。3)十二指腸潰瘍では、胃潰瘍、慢性胃炎より高率にCag A蛋白陽性株の感染を認めた。4)消化性潰瘍分離株では胃炎分離株よりも高率に毒素活性を呈した。5)約3割の株はCag A蛋白と毒素活性との間の解離を示した。これらの結果は、消化性潰瘍分離株では胃炎分離株よりもCag A蛋白や毒素活性の陽性頻度が高いとする従来の報告とほぼ一致している。一方、欧米の報告では、Cag A蛋白陽性率ないし毒素活性陽性率は6割程度のものが多く、当該地区においてはCag A蛋白陽性株並びに毒素活性陽性株の割合が高い可能性を示唆している。現在、vac A遺伝子の多様性とVac A蛋白の分泌、毒素活性との関連について検討中である。
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