タイ国北部山岳少数民族児童青少年の身体発育・発達の背景となる生活状況や教育状況については未知な点が多い。タイ国北部山岳少数民族の身体発育発達の評価と疾病、障害、低栄養状態などの評価およびその改善はタイ政府にとっての重大な急務であるが、データがわずかしか存在しないために対策は極めて立ち遅れている。本研究は、山岳少数民族に対して活動を続けている民間の経済援助機関との密接な協力関係を活かしてタイ国チェンマイ県におけるサモン郡のカレン族、メオ族、リス族、メ-リム郡のカレン族、パオ郡のリス族の調査を実施し、児童青少年の発育・発達とそれに伴う様々な健康上、生活上、教育上の諸問題を明らかにすることを目的とした。 1993〜1994年度にかけて、タイ国北部山岳地区に於て、発育発達と教育環境調査を行った結果を解析したところ、一部ではあるが以下のことが明らかになった。 1.電化率はモン族が14.3%、リス族が51.5%であり、水道普及率はモン族が30.2%カレン族16%、リス族10%と低率であった。また、耐久消費財保有については、テレビ、冷蔵庫、バイクなどについても低い値であり、生活は今だに便利であるとは言い難い状況であった。 2.医療行動では、ひどい病気をした場合でも、モン族やリス族はお供えやおはらいで治療を行う様子が伺えた。ひどい外傷の場合では、リス族におはらいをよくする特徴がみられた。また、軽い病気や外傷を自家製の薬で処理する傾向がみられた。 3.精霊信仰が強いことが認められ、特にリス族に顕著であった。 4.家族関係として、兄弟姉妹の数がタイ族と比較し多いことが認められ、中でもメオ属の兄弟姉妹数が最も多かった。 従って、山岳少数民族は生活が地理的、物資的に不便であることに加え、精霊信仰が強いことに関心を払うことが重要である。精霊信仰が教育、健康、生活習慣などに強い影響を及ぼしていると考えられる。
|