衣服を最小の人間環境制御装置と考え、個人レベルでの快適な環境設計のために、衣服の着用快適感の客観的な評価法、特に夏の暑い環境下や運動時に発生する衣服着用時の湿度に関する不快感の評価法を確立するために、湿度感覚の一つである濡れ感覚を選び、衣服素材の物性値の違いによって濡れ感覚がどのように影響を受けるのかを明らかにすることを目的として研究を行った。明らかになったことは以下の2点である。 (1)絹及び綿・羊毛を重ね着し、環境湿度を加湿または減湿した場合のヒトの熱・水分移動特性を測定した結果、衣服内湿度には差がないにも関わらず、羊毛を衣内に着用した場合には、絹を衣内に着用した場合よりも発汗しているヒトは知覚することがわかった。この差は、素材の乾燥特性及び素材の表面特性の違いによって生じたと思われ、羊毛のような毛羽のある素材は、濡れ感覚を増加させることがわかった。 (2)夏用衣服素材として用いられることの多い20種類を用いて、数段階の含水布を作成し、これをヒトの右手甲に貼付した場合の濡れ感覚を測定した。更に、この含水布をKES-FBシステムを用いて、曲げ特性、表面特性、qMAXを測定し、濡れ感覚を、このような布物性値から推定する方法を考案した。各素材の含水率の増加に伴って、濡れ感覚は増加するため、この増加度を回帰式によって各素材ごとに求め、これを濡れ感の傾きとして評価の指標に用いた。更に、KES-FBシステムの曲げ特性、qMAXの含水率による増加度を各素材ごとに算出し、この個々の傾きを用いて、濡れ感覚の傾きとの重回帰分析を行ったところ、相関係数0.86と高い係数を得ることができた。この濡れ感覚の傾きに及ぼす効果は、曲げ特性よりもqMAXが大きかった。素材の段階で濡れ感覚を引き起こしやすい素材かどうかを判断できることは衣服設計上非常に有用である。
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