長時間運動の限定因子の一つに無酸素性作業閾値(AT)があり、マラソンレース等ではATを指標にして走速度(ペース)を決定することがある。一方長時間運動中には、生体の生理機能(状態)は刻々と変化(多くは低下)するので、マラソン等で一定ペースを保つことは相対的に負荷を増すことになり、そのため徐々にペースを落とす走り方を生理的イ-ブンペースと呼ぶ場合がある。これらのペース低下を引き起こす要因として、心臓・循環機能の低下、代謝変化、脚の筋、腱、関節等の損傷等があげられる。ところが実際のレースにおいて、AT以下のペースで走っていても、これらの生理的変化では説明のつきにくいペース低下が起こることがある。その原因の一つとして、運動が長時間に及ぶと何らかの原因でATが低下する可能性を考えた。すなわち、運動前のATレベルで走っていても、ATが長時間運動中に漸減するとそのペースはやがてAT以上になり、血中乳酸の蓄積が起こる。したがって、乳酸蓄積が制限因子となってペース低下が起こる場合もありうると考えた。そこで、長時間の運動によって一過性にATが減少するのかどうかを明らかにするために以下の実験を行なった。日頃よくトレーニングしている長距離ランナーに対して、30分間のAT下で一定ペースの走運動を行なわせ、その運動の前後に速度漸増負荷走を行ない、その時の呼吸パラメーターからATを測定した。その結果、長時間運動後のATは低下する傾向が見られた。症例を増やすことを第一に今後も検討を続ける予定である。また、フィールド実験に備え、ポ-タブルの乳酸分析機(YSI社製、1500SPORT)を購入した。この機種選定に若干の時間を要したが、種々の条件で乳酸を測定し、より妥当性の高い機種を購入することができた。今後この分析機によってフィールドでの乳酸測定を行ない、AT低下の裏付けをしていきたい。
|