研究概要 |
1 ポスト・フォード主義論による研究動向の展望 本研究のフレームワークは,ポスト・フォード主義論に基づく研究動向を抑えることにより構築が可能となる。この課題に応えるために,欧米で近年盛んとなっている「フレキシビリティ」論争を,わが国への適応を念頭において整理し,その現状と問題点の把握を行った。「フレキシビリティ」は,市場の急変や多様化に応じるために企業がとっている経営や生産の変化の方向性を示すものであり,それには「企業内」,「企業間」,「国民経済」レベルの3つの階層性があった。ここでは,「企業内」と「企業間」が重要であり,このレベルで「フレキシビリティ」が達成されると,新しい工業空間が誕生する可能性が高い。この一連の考察過程と成果は,「工業地理学における「フレキシビリティ」研究の展開」(『地理科学』50巻第4号)として公表した。 2 わが国工業の動向と広島大都市圏工業 続いて,わが国工業の全体的動向を捉えた。いわゆる「バブル経済」の時代,わが国工業は自動車を中心に,コンピューター制御された生産機械の大量導入による「フレキシビリティ」達成の動きにあったが,最近では人手による「フレキシビリティ」の達成の方向に動きつつある。それは,後者の方が生産コストが低く抑えられることが大きな原因である。広島大都市圏の各工場においても,「フレキシビリティ」への方向が模索されているが,「労働力のフレキシビリティ」導入が最も進んでいる。ただし,それは当地域工業の中心である自動車企業の販売不振を最大の原因とするものであり,欧米で得られた新しい工業空間の形成における「フレキシビリティ」とは質的に異なることが明らかとなった。
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