平成4年度より理工系学生に最低限要求される初等力学分野に焦点をあて、実験報告書の考察文章中で使用した用語の階層性を学生本人が調べて既習の知識体系を視覚的に把握・検討することのできる、聴覚障害学生のための新しい物理教育法の研究を行ってきた。平成6年度まで、用語の階層性に着目させると実験報告書等の考察文書に変化がみられ、視覚教材を取り入れたドライラボを組み込むことで用語の定着が促進され、用語間の関係も文章中でかなり適切に表現されることが示された。平成7年度実績の概要は以下のとおりであった。 1)初等力学・電磁気で用いられる専門用語に関する模範的階層性の調査 教育情報データベースのシソ-ラス(ERICT)においては、従来と大きな変化はない。しかし、来年度以降本学へ入学してくる学生は、新学習指導要領によった中等教育を受けているため、従来とは異なった教科選択を行っている。来年度以降は、そのための対策と調査が必要と考えられる。 2)映像情報の提示時間と講義後の用語保持状態との関連性 講義中の映像提示については、短時間(10秒〜1分程度)の映像を用語解説に提示することを毎回の講義毎に繰り返し行うことを平成7年度も試みた。その結果、聴覚障害学生の日常的コミュニケーション手段である手話の表現力を、短時間の映像提示が促すことが認められた。文字情報とともに、イメージ化を促進する手話表現が高まったことは、内言語の拡充が行われていることの一つの現れとも見られる。しかし、今年度はまだ、学生実験報告書に示される文章中の用語関連図と模範的用語関連図との客観的比較・検討を行うことができなかった。 平成8年度以降、確実な用語が獲得される中間レベルの状態を把握する目的からも、文字になる以前の段階、つまり実験報告書におけるグラフ化過程の調査へと内容を絞っていく計画である。また、学生が記述した文章を客観的に評価するための手段として、消費者テストなどで広く用いられているBradley-Terryモデルを、教育評価に適用することを試みる計画である。
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