オブジェクトの堆積とオブジェクトの連結は、継承機能を必要としないオブジェクト指向システムを構造化するために研究代表者が考案したモデルである。このモデルの特徴は、複数のオブジェクトの層を作ることで、それらのオブジェクトの持つ機能を統合する点にある。オブジェクトの堆積は分散型オペレーティング・システムにおけるファイル・システム、オブジェクトの連結はウィンドウ・システムにおいて、高い機能を持つオブジェクトを構築するために有効であることを確認している。本研究では、両モデルをインターネット上の情報提供システムの1つであるWorld Wide Web (以下WWW)において適用し、その機能を拡張する。 本研究では、WWWではオブジェクトの堆積を利用するために、WWWの通信プロトコルであるHTTPでアクセスできる資源をオブジェクトとみなせばよいことを明らかにした。オブジェクトの堆積モデルでは、堆積可能オブジェクトが中心的な役割を果たす。本研究では、WWWにおける堆積可能オブジェクトとして、イメージ変換、漢字コード変換、漢字ローマ字変換、汎用フィルタといった機能を提供するものを実現した。そして、それらを組み合わせて利用することができることがわかった。 本研究では、WWWにおいてオブジェクトの堆積の実現する際に、新たな技術として、仮想堆積可能オブジェクトとポインタ・スウィズリングという技術を開発した。前者は、アクセスされて初めて、上から下へ層が形成される技術であ。後者は、オブジェクトの内部の参照を、一貫性を持つ形で書き換える技術である。さらに本研究の結果として、オブジェクトの連結モデルは、WWWシステムに適用するのは困難であることが明らかになった。その理由は、WWWでは、非常に多くのオブジェクトが存在するため、オブジェクトの連結に必要な双方向のリンクを保持することが難しいからである。
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