研究概要 |
ディーゼル排気微粒子(DEP)の肺での炎症発生の機構を明らかにするため,内皮機能と低密度リポ蛋白(LDL)変性に対するDEPの作用について検討した.ラット胸部大動脈血管リング標本をDEP懸濁液と37℃,10分インキュベーション後,Phenylephrineで前収縮させAcetylcholineによる内皮依存性弛緩反応(EDR)を測定した.DEPは10μg/mlからEDRを抑制し,100μg/mlで約85%抑制した.DEP(10μg/ml)によるEDRの抑制は,スーパーオキシド(O_2^<・->)消去剤,Superoxide dismutase(SOD)の前処置により完全に抑制された.しかしDEP(100μg/ml)によるEDRの抑制は,SODにより30〜40%しか抑制されなかった.このことからDEPのEDR抑制作用は,DEPから産生されたO_2^<・->によるものとその他の因子によることが明らかとなった.EDRは内皮細胞(ED)で産生,放出され平滑筋を弛緩させる内皮由来弛緩因子(EDRF)の作用によることが知られている.そこでブタ胸部大動脈よりECを単離培養し,Bradykinin刺激によるEDRF産生に対するDEPの作用を検討した.DEP懸濁液はECと10分のインキュベートにより,0.1μg/mlより濃度依存的にECからのEDRF産生を抑制し,100μg/mlでほぼ完全に抑制した.このことからDEPは内皮細胞に作用し,EDRFの産生を抑制することが示唆された.酸化変性LDLは動脈硬化発症因子として知られているが,近年炎症発症に対する関与が注目されている,DEP懸濁液(1〜100μg/ml)をブタ血清より精製したLDLと37℃,60分インキュベートすると,酸化LDLの指標である共役ジエンの生成,電気陰性荷電の増加,マクロファージへの取り込み増加とコレステリルエステル蓄積が認められ,DEPがin vitroでLDLを酸化変性することが示された.以上の研究から,肺胞に蓄積したDEPより産生されたO_2^<・->やDEP中の可溶性物質が密接して存在する毛細血管のECや血液中のLDLに作用し,抗炎症作用をもつEDRFに対する抑制作用や酸化LDLの生成により肺での炎症を惹起する可能性が考えられた.
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