研究概要 |
野外調査については,調査対象の低湿地性稀少植物としてドクゼリ,ノウルシ,サデクサ,コバノカモメヅル,オニナルコスゲ,ヒメナミキ,ヌマゼリ,タコノアシの計8種を選び,これらの植物について琵琶湖の安曇川町松ノ木内湖,新旭町安曇川デルタ,近江八幡市西の湖の3地域に調査区を設け,各植物種の生長様式,環境および群落の季節変化を計測した.室内実験については,低温恒温器を用い,上記の植物について種子発芽実験を行なった.その結果,低湿地性稀少植物は環境の微妙な変化に対応して生育していること,またその環境は季節的に大きく変動すること,そして各植物種の生長様式はその変動にうまく対応したものであることが明らかとなった.とくに,低湿地において最も優先するヨシとの共存的な生活様式の生存と,ヨシと非共存的なパイオニア植物としての生活様式の存在が明らかとなった.また,群落のなかでは時間的・空間的に光環境が大きく変化することが判明するとともに,季節的な光環境の変化に応じて植物体が季節消長を行なうタイプと,植物体の空間的再配置を行なうことで光環境の変化に対応するタイプの二つの存在が明らかになった.これらの事実から,群落構造の変化に応じて各植物種が生態的な地位を変化させることが低湿地環境の特徴であることが結論づけられた.さらに,同一の植生は群落遷移によって比較的短い期間しか継続されないこと,植生の維持には不定期の増水による攪乱が大きな意味を持つことが示唆された.一方,発芽実験については現在も継続中であるが,既に得た結果からは各植物種独特の発芽特性が見られるものの,それらは概ね攪乱環境に適応したパイオニア的性格であることが判明した.低湿地性稀少植物に関する保全対策の指針を得るために,これらの特性と環境変動の総合的な解析を現在行なっている。
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