紅藻オゴノリ類より単離された推定食中毒原因物質ポリカバノシドAは、マウスに対する致死毒性が極めて強いことが明らかにされているが、天然存在量が微量であるため、その平面構造と部分的な相対構造しか解明されていない。本申請者は有機化学的構造決定と最初の全合成を目的にポリカバノシドAの全合成研究を開始した。 これまでにポリカバノシドAを構成しているテトラヒドロフラン(THF)環部、テトラヒドロピラン(THP)環部の各セグメントの両対掌体の合成は既に完了している。本研究では相対配置の未解明な糖鎖部の合成とそのTHP環部との連結を初めに行い、次にマクロラクトン化の前段階としてTHP環部とTHF環部の連結についてモデル化合物を用い検討した。 糖鎖はフコースとキシロースの誘導体で構成されているが、その相対配置が不明であった。そこでフコースのD-体とL-体のそれぞれの誘導体を合成し、D-キシロース誘導体と連結し、2つのジアステレオマ-を合成した。天然物と^1HNMRを比較したところ、D-キシロースとL-フコースからなる誘導体と極めて良い一致を見たので、天然物の相対配置がこの組み合わせであることを明らかにできた。さらにこの誘導体をTHP環部のそれぞれの対掌体と連結し、2つのジアステレオマ-を合成し、同様に^1HNMRを比較することによって天然物の南半球の相対配置を決定することができた。更に、天然物で観測されているNOEデータと結合定数のデータを元に全相対配置を推定した。 THF環部とTHP環部の連結はα-ケトアセタール部分で行う計画であり、THP環部をニトロ誘導体としてアルドール反応でTHF環部と連結しようと考えた。モデル化合物で検討の結果、現在ニトロ基をケトンに変換することは困難であるが、セグメント間の連結は可能であることが分かった。他のアシルアニオン等価体でも連結とケトンへの変換を検討している。
|