豚大動脈平滑筋に見い出したミオシンホスファターゼ阻害蛋白質の生理的機能を調べることを目的として以下の研究を行なった。 1.阻害蛋白質の特異性 この阻害蛋白質はミオシンホスファターゼ活性を強く阻害するだけではなく、1型プロテインホスファターゼ(PP1)の活性も同程度阻害することが示された。一方、2A型プロテインホスファターゼ(PP2A)の活性は全く阻害されなかったことから、この阻害蛋白質はミオシンホスファターゼを含むPP1に対して特異的に働くことが示された。既に報告のあるPP1の阻害蛋白質はミオシンホスファターゼ活性を部分的にしか阻害できなかったことから、この阻害蛋白質が平滑筋においてミオシンホスファターゼ活性を調節している可能性が示された。 2.阻害蛋白質の活性化機構 この蛋白質の阻害能は1ヵ所のスレオニン残基がプロテインキナーゼC(PKC)とその関連キナーゼによってりん酸化ことで活性化されることが明らかとなった。すなわち、阻害蛋白質は複数の細胞内シグナルによって調節されていることが示された。既に報告されているように、平滑筋にPKC活性化剤を作用させるとミオシンホスファターゼ活性が低下し、ミオシンりん酸化量が増加するという現象は、この阻害蛋白質が関与していると考えると矛盾がない。 3.阻害蛋白質のcDNAクローニング 上記のとおり、この阻害蛋白質が平滑筋においてミオシンホスファターゼの調節に働いている可能性が示された。阻害蛋白質の機能をさらに調べるために遺伝子クローニングを行なった。まず、プローブとなる配列を得るために、アミノ酸配列の決定を行ない137残基分決定した。この値は全体の75%に相当する。 これらの配列と相同性を示す蛋白質は見い出されず、この阻害蛋白質が新しい蛋白質であることが明らかとなった。現在、アミノ酸配列情報を元に作成した混合プライマーを用い、PCR法で阻害蛋白質の部分塩基配列を増幅させることに成功し、全塩基配列の決定を進めている。
|