CaMキナーゼIIの自己阻害ドメインの酵素安定化機能とその作用機構を探るため、キモトリプシン処理によって自己阻害ドメインを取り除いた活性フラグメント及びThr^<286/287>が自己チオリン酸化されたCaMキナーゼIIを用いて種々の解析を行い、以下の知見を得た。本活性フラグメント及び自己チオリン酸化酵素は元の酵素に比べて熱安定性が著しく低下していた。これらは自己阻害ドメイン中の自己リン酸化部位Thr^<286/287>周辺のアミノ酸配列を模した合成ペプチドを添加することにより顕著に安定化されたがsyntide-2などの通常のタンパク・ペプチド基質にはこのような効果は認められなかった。一方、Thr^<286/287>周辺のアミノ酸配列を模した合成ペプチド基質、autocamtide-2のリン酸化部位をアラニンに置換したペプチド、AIPは本酵素を強く阻害したが、AIPを用いた阻害実験の結果から本酵素は少なくとも二つの互いに異なる基質結合部位---即ち通常の外来基質に対する部位と内在性基質である自己リン酸化サイトに対する部位---を有していることが強く示唆された。蛍光ラベルしたAIPを用いた結合実験によってもこの結論は支持された。従って、CaMキナーゼIIの自己阻害ドメインは自己リン酸化部位Thr^<286/287>周辺のアミノ酸配列に対する結合部位と結合することによって本酵素の活性制御のみならず安定性の制御・維持においても極めて重要な役割を担っていることが示唆された。
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