アミノ酸脱水素酵素は、アミノ酸代謝と有機酸代謝の転換点に位置し生理的に重要な役割を果たしている。本研究では、Bacillus stearothermophilusのロイシン脱水素酵素(LeuDH)、Thermoactinomyces intermediusのフェニルアラニン脱水素酵素(PheDH)を対象に、その構造比較に基づき、基質結合ポケット内に存在して基質認識に重要な役割を果たすと考えられるアミノ酸残基を部位特異的に置換し、基質特異性の変換を試みた。 まず、LeuDHの基質結合ポケットに存在すると考えられるAla-113をPheDHの対応するGlyに置換してポケット体積を拡大し、Pheに作用できるように改変を試みた。また、同じくポケット内に存在すると予想される、Val-291をPheDHの対応するLeuに置換したダブルミュータントも同時に作製した。両変異型酵素とも脱アミノ反応の反応速度は野性型LeuDHの5%以下にまで低下したが、予想通りPheに対してAla-113/Glyで30%、Ala-113/Gly・Val-291/Leuでは4%の相対活性で反応できるようになった。従ってLeuDHはAla-113のメチル基の立体障害によりPheDHよりポケットが狭く、Pheに作用できないことが明らかになった。 次に、LeuDHのポケットの底に存在すると考えられる2つの疎水性残基、Leu-40、Val-294に変異を導入し基質特異性の変換を試みた。それぞれをAspおよびSerに置換し、イオン結合および水素結合により塩基性アミノ酸を結合できるように改変することを試みると、反応速度は野生型酵素の1.6%と低い値だが、野性型LeuDHの基質とならない塩基性アミノ酸のLysに作用できるようになった。またこれらLeu-40、Val-294を、それぞれLys、Serに置換したところ、反応速度はさらに低下したが、逆に酸性アミノ酸であるGluに作用するようになった。従ってLeuDHはそのポケットの疎水性により、疎水性アミノ酸に特異的であることが明らかになった。
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