本研究で私は、Srcファミリーチロシンキナーゼを特異的に認識し、かつキナーゼ活性化を引き起こすことのできる抗体(抗pepY抗体)を用いて、ゼノパス卵母細胞膜分画より同定した分子量57kDaのチロシンキナーゼ(本研究申請時はXyk、現在はp57キナーゼと命名)の構造と機能について解析した。その結果、及び今後の展望を以下に記す。 1)約700匹のゼノパス卵母細胞より、約100μg(1750pmol)の精製p57キナーゼ標品を得た。現在、プロテアーゼ消化により部分断片化されたp57キナーゼのマイクロシークエンシングを行っている。得られたp57キナーゼ部分アミノ酸配列をもとに、今後1年以内に、p57キナーゼcDNAクローニングを完了する予定である。 2)卵母細胞内のp57キナーゼは、プロゲステロン投与による卵成熟誘導(未受精卵への転換)時には顕著な酵素活性の変化を示さない一方で、未受精卵への精子投与(人口受精)後1分で活性化とチロシンリン酸化の上昇を示し、一部が膜分画から細胞質分画へ移行することがあきらかとなった[JBC (1996) in press]。さらに、膜分画を細胞膜と顆粒分画に分けた実験から、受精時にチロシンリン酸化の上昇が見られるp57キナーゼは、細胞膜分画に局在していることが示された。(未発表)。これらの結果は、受精シグナル伝達の極めて早い段階にp57キナーゼが関与していることを示唆している。現在、p57キナーゼ活性化因子や、活性化p57キナーゼの標的タンパク質の同定を試みている。 また本研究では、抗pepY抗体を用いて、ヒト偏平上皮がん細胞A431のc-Srcについて、特に上皮成長因子(EGF)受容体との相互作用に的をしぼって解析した。その結果、 1)EGF刺激を受けた細胞内において、c-Srcが一過的に活性化され、かつ、その一部が抗pepY抗体の認識部位(Inter-DFG-APE領域と呼んでいる)を介してEGF受容体と結合していること[BBRC(1995a)]、 2)1)のc-Src-EGF受容体複合体において、EGF受容体がc-Srcによりチロシンリン酸化されること[BBRC(1995b)]、 を見い出した。1)の複合体形成には、c-SrcとEGF受容体以外の因子の存在が必要であることが示唆されており、現在、c-SrcのInter-DFG-APE領域に結合するタンパク質の同定を進めている。
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