アミノ基転移酵素はアミノ酸代謝においてアミノ酸とオキソ酸間のアミノ基の転移反応を行なう。各アミノ酸に対する親和性が異なる複数種類のアミノ基転移酵素が報告されているが、申請者は中でも芳香族アミノ酸を基質とするアミノ基転移酵素(AroAT)に着目し、酵素の構造と機能両側面からその触媒機構を理解することを目的としている。現在までに所属研究室においては、立体構造からの知見を元にアスパラギン酸を基質とするアミノ基転移酵素(AspAT)について詳しく解析されている。そこで異なるアミノ基転移酵素間の基質特異性やその認識機構を比較するためにも、まず現時点で不明なAroAT立体構造の解明が必要であると考え、本申請内容であるサルモネラ菌AroAT遺伝子のクローニングと蛋白質発現系を作成した。 まず大腸菌AroATとAspAT間で相同性の少ない部分を考慮して大腸菌AroATコード領域の内側でオリゴヌクレオチドプライマーを作成した。これを用いてPCR法で、サルモネラ菌ゲノムDNAより、大腸菌AroATに相同性の高いDNA断片を得た。次に、カセットDNAを用いたゲノムDNAウォーキング法により5'側あるいは3'側の非コード領域を含むDNA断片を得、最後に得られた非翻訳領域の一部をプライマーにしたPCRをもう一度行ない、全長域のDNAを得た。得られたDNAにおける蛋白質コード領域は大腸菌AroATと同じくGTGを開始コドンとし、また、チロシンを介した発現調節蛋白質TyrRの結合部位(TyrRボックス)のコンセンサス配列が、大腸菌AroAT遺伝子と同様、一部コード領域に重複して5'側に認められた。またコードされている蛋白質は397残基からなり、計算より求めた分子量は43375であった。そのアミノ酸配列は、大腸菌AroATのものと87.9%と高い相同性を示し、一方これまでに一次構造の解析されている他のAroAT、また大腸菌AspATとは40%前後の相同性であった。次にこれをLacプロモータの下流に置いたプラスミドを作成し、大腸菌AroAT遺伝子を不活化した株(TY103)において蛋白質を発現させた。このサルモネラ菌AroAT遺伝子を戻した菌の粗抽出物にはTY103では見られないAroAT活性が、大腸菌AroAT遺伝子を戻したものと同程度に回復した。このことより、得られた遺伝子産物は大腸菌AroATと同等の酵素活性を示すと考えられた。以上の結果より大腸菌内でのサルモネラ菌AroAT蛋白質の発現系が構築できたので、この系を用いてサルモネラ菌AroATを精製している。
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