本研究は、液体・固体界面を利用して有機分子及び生体分子を基板上に配向させ、これらの分子の高分解能でのSTM観察に成功した。まず、固液界面に有機分子を配向させる方法を開発した(95年論文発表)。さらに、この手法による有機分子のSTM観察は、当初の目的だった分子内の官能基単位の分解能を越え、有機分子中の個々の原子の識別にまで到達した(論文準備中)。このことから、有機分子のSTM像はフロンティア軌道の最高被占軌道や最低空軌道を単純に示しているのではないことが確認された。加えて、有機分子内の1原子の置換による2次元配向への影響を直接示すことに成功した。さらに、固液界面における2次元配向した分子の動的振る舞いを示した(論文印刷中)。この分子レベルの振る舞いを詳細に解析することによって、我々は、これまでに測定されてきたバルクな状態で観察されてきた現象を熱力学のフリーエネルギーの視点から分子レベルで統一的に述べることに成功した(論文準備中)。 タンパク質のSTM観察において最大の疑問は、「絶縁体のタンパク質分子がなぜSTMによって観察することができるのか?」という点にある。しかしながら、これまでの報告で、再現性の高いSTM像が得られたことはほとんどない。1番の理由は、STM観察中に探針とサンプルの相互作用によって、サンプルが移動することにある。そこで、タンパク質分子を基板に共有結合することにより、この問題点を解決した。この方法によって、我々は簡便に、しかも、再現性の高いSTM像を得ることに成功した。この結果から我々は、タンパク質のSTM観察における新しいメカニズムを提唱している(論文準備中)。
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