1993年に中西らがラット網膜より新たな代謝型グルタミン酸受容体遺伝子、mGluR6を単離し塩基配列を明らかにした。このmGluR6産物は網膜に特異的に発現しており、翻訳産物を発現させた培養細胞はAPBに対して強い応答性を示したことから、mGluR6がオン型双極細胞のグルタミン酸受容体の有力な候補と考えられた。そこで、mGluR6蛋白質の分子的実体を調べる上での有力なツールとして、特異的な抗ペプチド抗体を作製を試みた。C末端の14残基を抗原部位として選び、N端にシステインを加えた合計15アミノ酸よりなる1本鎖ペプチドおよび、キャリアーとしてmultiple antigen peptide(MAP)を直接導入した合成ペプチドを合成した。得られた合成ペプチドをMAPペプチドは直接、1本鎖ペプチドはシステインを介してキャリアー蛋白質と結合させたものを数種類合成し、それぞれ数匹のウサギに免疫した。得られた抗血清を抗原ペプチドを用いたELISAおよびウシ網膜膜標品を用いたウエスタンブロットにより評価した。いずれの抗血清も満足のいく特異性が得られなかったため、さらに抗原固定化カラムによる特異抗体の精製を行った。抗血清の50%飽和硫安沈殿画分を1本鎖ペプチドを結合したセファロース4Bカラムに添加した後、4M塩化マグネシウムにより溶出した画分を精製抗体とした。以上のようにして作成した数種の精製抗体を用いてmGluR6蛋白質の検出を行った。このうち1つの抗体により約100kDaの単一のバンドが検出された。この蛋白質の分子量は遺伝子の塩基配列より推定されるラットのmGluR6受容体の分子量95kDaとほぼ一致しており、本抗体がmGluR6受容体を特異的に認識するものであると考えられた。本抗体を用いた、網膜切片の組織染色や、免疫沈降法によるmGluR6受容体蛋白質の単離などが今後の検討課題となろう。
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