コフィリンは真核生物全般に存在する低分子量アクチン結合タンパク質で、その活性はイノシトールリン脂質やpHにより制御される。今年度は更に、リン酸化を介したコフィリンの活性調節について解析し、以下の事実を明らかにした。(1)コフィリンのリン酸化部位はN端から3番目のセリン残基である。(2)リン酸化により、コフィリンはG-アクチンに対してもF-アクチンに対しても結合性を失う。(3)イノシトールリン脂質との結合活性はリン酸化の影響を受けない。(4)リン酸化部位のセリン残基をアラニンに置換した組換え体コフィリン(疑似脱リン酸化型)、またはアスパラギン酸に置換した組換え体(疑似リン酸化型)は、試験管内でのアクチンとの相互作用に関して、それぞれ脱リン酸化型及びリン酸化型のコフイリンと同等の活性を示す。(5)疑似脱リン酸化型や野性型のコフィリンを培養細胞に強制発現させると細胞質に太いアクチン線維の束が出現するが、疑似リン酸化型では細胞の形態やアクチン細胞骨格系に影響はない。(6)熱ショック等のストレス条件で細胞内に形成されるアクチン・ロッドに対しては、疑似脱リン酸化型は結合するが、疑似リン酸化型は結合しない。(7)出芽酵母ではコフィリンをコードするCOF1遺伝子がその生育に必要不可欠であるが、哺乳類コフィリンの疑似脱リン酸化型が酵母COF1遺伝子の欠損を相補できた一方で、疑似リン酸化型は過剰発現させても相補不能であった。以上の結果から、コフィリンとイノシトールリン脂質の結合が細胞の生育に必要か否かについては未だ不明であるものの、コフィリンとアクチンの相互作用が生育に必須であり、この必須機能がリン酸化による制御の対象となっていることが示された。 最近、熱ショック・ストレスだけでなく、その他様々な生理的刺激に伴い、コフィリンの速やかな脱リン酸化が起こることが相次いで報告されており、このようなリン酸化の意義が今後の検討課題である。
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