本研究の目的は、成獣ラットで雄優位のアロマテ-ス(AROM)発現と雌優位のエストロゲン受容体(EsR)発現の性差を示す内側視索前野-扁桃体弓(mPO-AM)について、生後発達の各段階を免疫組織化学的に検討し、これらの性差がいくから著名になるのかを明らかにし、生直後でのホルモン投与や去勢そしてアロマテ-ス阻害剤投与が両者の性差発現にどう影響を与えるのかを調べることにあった。今回の研究により、出生前後では、mPO-AMのAROM発現は、やや雄優位ではあるが雌雄共に強く、EsR発現はやや雌優位であるが雌雄共に比較的弱いこと第4週以降、雌のmPO-AMでAROM発現が落ちて著名な雄優位の性差を生じ、EsRは雌特異的に発現が増強して著名な雌優位の性差を生じることが明らかにされた。また、生直および成獣雄ラットでの去勢により、それ以降のAROM発現が落ち、EsR発現が著名に上昇し、雌パターンになるということもわかった。さらに去勢後の性ステロイド投与により、若年から成獣で、アンドロゲンは脳内AROMを誘導し、エストロゲンはEsRを抑制するという結果が得られた。なお、予定外の実験ではあったが、末梢組織で、AROMを含むステロイド産生P450の制御因子であるAd4結合蛋白(Ad4BP)の遺伝子をノックアウトしたマウスを解析したところ、末梢のステロイド産生臓器(副腎、精巣、卵巣)の欠損が見出されたが、生直後の脳内AROM発現に明らかな変化が見られなかった。この結果により、胎生期から生直後のラットの脳内AROM発現の制御機構は、末梢や成獣脳のものとは違っており、ステロイド以外の因子による制御が主体で、性ステロイドによる制御が相対的に弱いことが示された。AROM阻害剤の投与実験結果は現在のところはっきりとしていないが、以上の結果より、少なくとも思春期以降、雄における大量のテストステロンは、mPO-AMのAROMをup-regulationし、局所性のエストロゲン産生を促しEsRをdown regulationすることで脱女性化を誘導している可能性が示唆された。
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