脊椎動物の脳に共通した特徴として、その局所的な神経回路形成、つまり外部からの入力および内在性ニューロン間の結合性が、「層」に秩序づけられたパターンに支配されていることが挙げられる。当研究者は、この問題を解決するため、実験的な利点の多いニワトリ網膜神経が視蓋の特定層に選択的に結合する系の発生に注目している。今回は、この系の細胞的成り立ちをより深く理解するためのマーカーの開発を行って、層選択的な染色を示すいくつかのモノクローン抗体を得ることに成功した。それぞれのモノクローン抗体は、発生段階で、網膜視蓋神経結合の発生と相関した局在化パターンを示す特徴的な蛋白質を認識している。現在、これらのモノクローン抗体をマーカーとした発生学的研究、および抗体の認識する分子に関する詳細な研究が進行中である。これらのモノクローン抗体については、その一部を予備的な形で公表している。一方、神経結合の様子をより単純な系のなかで観察する実験系を確立する試みも行った。とりわけ、諸々の不死化遺伝子を組み込んだレトロウィルスベクターを用いることで、ウズラ網膜および視蓋から不死化細胞株を多数作製することにも成功した。従来、細胞株の作製が困難とされていた鳥類より、神経系由来の細胞株が作製できたので、今後の研究に有用である。これらの細胞株は、1年間程度継代を続けることにより不死化の確認ができたものであり、今回の研究期間内での成果の発表は、科学的に不可能である。
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