研究代表者は、これまでの研究で、4週齢のマウスの胸腺を摘出すると、10カ月齢時において著明な記憶学習機能障害が出現することを明らかにしてきている。本研究はこれまでの研究成果を発展させ、新たな疾患モデル開発の可能性を探索する目的で実施された。胸腺摘出による学習障害の出現時期を明確にするため、雄性ddYマウスの胸腺を生後3〜4週齢時に摘出し、コンペンショナルな環境で飼育した。胸腺摘出後1、3、5および10カ月齢時に受動的回避試験(ステップスルー試験、ステップダウン試験)、能動的回避試験(シャトルボックス試験、レバ-プレス試験)、空間認識試験(モリス水迷路試験)を用い、学習記憶能力を評価した。さらに、胸腺摘出による免疫機能低下の指標として羊赤血球に対する抗体産生能をプラーク形成(PFC)試験を用いた。胸腺摘出後10カ月齢時では、すべての学習試験において顕著な学習障害が認められたが、5カ月未満ではいずれの試験でも胸腺摘出マウスは偽手術マウスと同程度の学習遂行能力を示した。一方、PFC試験においても、抗体産生能の低下は胸腺摘出の10カ月齢時においてのみ有意に認められたが、5カ月齢時未満では偽手術マウスと同程度であった。以上の結果より、マウスにおける胸腺摘出による記憶障害の出現のためには抗体産生能が先行して低下する必要があるものと考えられた。今後は、より早期に免疫能力を低下させる目的で、生後3日齢時に胸腺を摘出したマウスを用いてさらに検討を続ける予定である。
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