本年度、申請した「ペニス勃起による脳内c-Fos発現」に関する研究は、現在も進行中であり、また明確な結果を得ていない。この研究に関し、本年度は抗c-Fos抗体の選定、免疫組織化学の条件設定などに費やした。現在、良好な条件が見つかり、陰茎反射をさせた動物の脳組織の反応が終了した段階で、これから顕微鏡による観察、定量化を試みるつもりである。従って、この研究は、来年度にまたがって行うこととなるであろう。 以上のc-Fos発現の研究と同時に、本年度は、ペニス勃起の延髄正中部の役割に関する研究を行った。延髄不確縫線核破壊は雄の性行動を強く抑制することが知られているが、我々はこの不確縫線核およびその背側部の内側縦束の2種類の破壊を作成し、それぞれ雄の性行動と発情雌と非接触刺激によって起こる自発性勃起とを調べた。その結果によると不確縫線核の破壊は、雄の性行動を抑制するが、非接触勃起の潜時を短くすることを、内側縦束破壊は非接触性勃起、性行動ともに抑制することがわかった。すなわち、不確縫線核は勃起に対しては抑制系として、性行動に対しては促進系として機能していると考えられ、相反する機能を担っていることになる。しかし、これらの領域は極めて近接しているため、現在、不確縫線核の破壊が内側縦束に侵襲し、その結果として性行動を抑制したという可能性を否定できない。そこで今後、この可能性を検討するとともに、勃起を抑制する内側縦束破壊がどのような投射系切断によるものかを、組織学的、行動学的に検討していきたいと考えている。
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