本研究は、顕微授精技術の医生物学へのより幅広い応用(遺伝子導入動物作成など)を可能にするために、精細胞の培養および凍結保存技術を確立することを目的とした。 以下の2つの実験を並行して進めた。動物はいずれもマウスを用いた。 (1)精細胞培養技術の確立: 精細胞の培養は、減数分裂依然の細胞を顕微授精可能な精子細胞まで減数分裂を終了させることを目指した。すべて株化あるいは初代セルトリ細胞との共培養を行った。精子細胞をもたない生後10日令の雄マウスより精細胞を取り出し、1-2週間培養した場合、精祖細胞の増殖は観察されたが、分化しなかった。一方、成熟雄マウスを用いた場合は、約10日後も精子細胞が観察された。精巣内の発生スケジュールを考慮するとこの細胞は精母細胞から分裂した可能性が高いが、現在確認中である。また、いづれの方法でも、FSH(卵胞刺激ホルモン)の添加が効果があった。 (2)精細胞の凍結融解技術の確立: 精巣から分離した精細胞の凍結法を、グリセロール、DMSO、エチレングリコールなどを用いて検討した。その結果、7.5%グリセロール+7.5%FSCをPBSに加え-1℃/分で凍結することが良いことが明らかになった。融解後の生存率は、70-80%であった(トリパンブルーによる試験)。その正常性を明らかにするために、融解後に円形精子細胞を顕微授精に用いた。150個の2細胞期胚を6匹の偽妊娠マウスに移植した結果、すべて妊娠し、17匹(11%)の正常仔が生まれた。以上の結果から、精細胞の凍結保存が可能となり、貴重な遺伝資源の保存や顕微授精実験の省力化などに役立つであろうと思われる。
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