従来から遺伝子導入法に用いられているジエチルアミノエチルデキストランの構造と細胞毒性との関係を明らかにするために、様々なジエチルアミノ基導入率、および、分子量を有するジエチルアミノエチルデキストランを合成した。それらの細胞毒性は分子量には依存せず、ジエチルアミノエチル基導入率に大きく影響された。導入率が30%以下では、細胞毒性は極めて低く、従来の導入率50%の場合の約100分の1の細胞毒性であった。しかしながら、これらの低毒性ジエチルアミノエチルデキストランを用いて細胞に導入した外来遺伝子の一過性発現頻度は、導入率が低い場合すなわち、毒性の低い場合には遺伝子の発現頻度も極めて低いことが明らかとなった。そこで、主鎖構造や側鎖構造の異なる十数種類のポリカチオンについて検討した結果、ジエチルアミノアセタール化ポリビニルアルコール、および、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドとアクリルアミドとの共重合体が低毒性で、高効率の遺伝子発現頻度を誘導できることが明らかとなった。 様々な構造を有するポリカチオンによる遺伝子導入を総合的に考察すると、遺伝子導入のための合成ベクターに要求される重要な因子として、(1)十分に高い導入率で3級(あるいは、4級)カチオン基を有すること、(2)側鎖に非電荷の親水基を有すること、などが明らかとなった。また、これら親水性基の役割が、DNA分子との間に形成されたポリイオンコンプレックスの親水性を保つことであることが示唆された。
|