本研究では、生体の客観的応答である視覚誘発電位(VEP)を用いた色覚応答検出法の確立とその方法の妥当性の検証を目的として、非線形システム解析法によるVEPの解析と、導出される非線形パラメータと色との関係を考察した。 色刺激を入力、VEPを出力とみなす非線形システムを仮定し、バイナリ汎関数級数展開法を適用して解析をおこなった。5名の被験者を対象として、8色の有彩色に対するVEPを実測した。2価疑似ランダム系列(M系列)に基づいて、2つの色画面を切り換えて提示して刺激とした。色刺激はCRTにより提示した。観測された入出力信号を用いて、システムの特性を表す核(Kernel)関数の推定および検討をおこなった。 2次までのKernelが特徴的な形状を示し、3次以上のKernelの振幅値はほぼ0であった。したがって、想定したシステムは2次の非線形性を示すといえる。1次Kernelは提示した色によりその形状が変化し、色刺激の色相の違いを反映していると考えられた。そこで、1次Kernelを主成分分析した結果、反対色応答成分が含まれることが示された。この結果は、ヒトの色覚に関する心理物理学的および電気生理学的研究、脊椎動物を対象とした生理学的研究による既出の結果と一致する。さらに、黄・青色刺激に対する2次Kernelは他の色のそれとは異なる特性を示した。これは、ヒトの色覚システムを構成する2つの色チャンネル(黄青、赤緑)の特性の違いを反映したものと考えられるが、この点についてはさらに詳細な検討が必要である。以上の結果より、Kernelを用いて色相の変化に対する応答成分を抽出できることが示唆された。
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