平成7年度は主にアリストテレスの「分析論後書」B巻の探求論の理解に取り組んできた。科学的探求のプロセスは第一段階で、探求対象の語の意味表示するものの把握、そして第二段階でその意味表示されたものが存在するかどうかの把握、さらには第三段階でその本質の把握に向かう。今年度は存在を含意しない意味論的に浅いとされるアリストテレスの語の意味論をめぐって、B10章の注解との関連で現代言語哲学の知見の修得に心がけてきた。さらに、B4-7章との関連で本質を開示するとされる定義と存在を確定するとされる論証の関係を研究した。新たに得た知見としてはB4-7章といういわゆるアポリアの諸章を解明する手法としてアリストテレスは「一性条件」(即ち定義を把握するさいには、被定義項としての自然種はその基本的な特徴故にそれが所有する特性を必然的に持つということを示すことによりそれが一性をもつという主張を正当化できるものでなければならないという条件)、さらには「認識条件」(即ち定義を知る適切な方法は或る特性は説明上対象の基本的な特徴であるという信念そしてこれらの特徴はなぜ種が一性を持つかを説明するという信念のよき根拠を提供するものでなければならないという条件)を課していたことが判明した。
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