1、ジョン・ロックの『人間知性論』を、同時代の実験的自然学の実践と結びつけて解釈することが、当初計画の基本方針であった。この方針の下で、ロックの認識論を、〈心的表象から外的実在へどうやって到達するか〉というデカルト的問題設定から切り離すために、新たな解釈枠組みを作り上げた。すなわち、ロックおよび同時代の実験的自然学の関心は、〈個別的事実認識から理論的知識へどうやって到達するか〉という問題であったことを、明らかにした。この点は、論文として日本哲学会編『哲学』第47号に掲載予定である。 2、実験・観察報告が知識主張として成り立つための条件を、思想史的事実と現代科学哲学の知見とを踏まえて検討した。17世紀後半の実験的自然学においては、自然探究の技能的熟練・探求成果の実用的有効性・学会という専門家集団の社会的形成、という3点が、経験にもとづく知識主張の成立にとって重要である、という見通しを得た。 3、ロバート・ボイル、トーマス・スプラット、トーマス・シドナムなどの著作を通じて、17世紀後半イングランドの自然学者たちの科学方法論、知識の哲学、自然哲学、神学などについての暗黙の了解事項を捉える作業に着手した。理論体系への懐疑、実験と観察の技能訓練の重要さ、言葉に依存する旧来の学問の否定、知識の実用性の重視、職人の技術の称揚、といった点に着目して当時の知識のイデオロギーを捉える計画である。
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