1:本研究をすすめる過程で、経学と「史」の学問の関係は、これまで考えてこられたものよりずっと構造的に一体となっていることが、解明されたきた。従来は、史学にかんして「史官」の伝統のみが注目されてきた。つまり、事実を記録しようという意識を行動とを中国文化の特性の一つと考えて、その現れとして史学を位置づけてゆく考え方がとられていた。史官の伝統は確かに重要な要素であるが、しかし、それのみでは中国分化の伝統の構造的解明はもちろんのこと、中国の伝統史学自体の解明さえも果たしえないと思われる。 2.今年度の研究は、中世期の入り口に当たる漢代の思想動向を調べ、経学的歴史観とでも言うべき中国文化を特徴づける(というより中国文化の伝統そのものの基本的構造を規定している)歴史観形成過程の解明を中心とした。その成果の一部は、「三代観念の形成」という題でまとめられ、埼玉大学紀要に掲載される予定である。その歴史観は、要するに、古の聖人の治める道の行われた時代、その時代を継ぐものとして現在はある、という歴史認識である。この歴史観はまた経学(儒教)を支える理論構造の一環でもあった。 3.この歴史観にもとづき、またこの歴史観の定着を促進するかたちで、中世以後の歴史書とくに正史が編纂されてゆくのである。その基本的な論理を抽出して、その概略を「儒教の歴史観」というタイトルで『しにか』に発表した。もっとも、中国の「史学」を考えるさいは、この他に史官の伝統をも考察する必要のあることはすでに述べた。 4.中世期の個別の史書にそれがどう反映しているか、また『史通』の分析からどのようなことが引き出せるかは、今後の課題として残ってしまった。引き続き、研究を続けてゆきたい。
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