本年度は、下記の項目に関し研究を実施した。実験は、関係諸学会のガイドラインに従い、被験者の同意の下に、安全性に十二分に配慮して行った。 (1)「音声知覚研究における学習パラダイム」に関する理論的研究 人間の音声知覚は本来、生得的傾向や過去経験を背景に個体発生過程で形成されるものであるから、その獲得過程を記述することは音声知覚研究において不可欠な方法である。報告者は、音声知覚研究における、こうしたパラダイムを「音声知覚研究における学習パラダイム」と名付け、その方法論に関する理論的考察を行った。 (2)日本語拍感覚の音声知覚学習を題材にした獲得過程の分析 引き続き、アメリカ英語(米語)話者を対象にした音声知覚訓練を実施し、獲得過程を記述するためのいくつかの技法を検討した。さらに、中国語話者を対象にした実験も開始し、母国語等の初期状態による獲得過程の相違を比較分析している。ただし、大阪大学で協力していただいた中国人被験者は日本語に習熟している方が多く、被験者の供給の面で問題を残している。 (3)日本語と米語の音声知覚に関する比較言語的研究 音声知覚訓練で使用する題材に変化を与えるため、それぞれの母国語話者が他方の言語を第2言語として学習するときの問題点を検討した。米語話者が日本語母音を学習するときは拍感覚との関連で問題が生ずること、逆に、日本語話者が米語母音を学習するときは母音数の多さが問題となることが明らかになった。また、両者とも、子音に関してもいくつかの問題が見られた。 (4)可搬型音声知覚訓練システムの開発 知覚・学習実験の簡便性や将来の実用性も考慮して、NeXT上の実験システムをラップトップ型IBM/PC互換機に移植中である。また、インターネットの利用も検討中である。
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