本研究の目的は、記憶の発達が活性化拡散領域の限定によって規定されているという仮説を検討することであった。本年度は、実験1として、小学6年及び大学生を被験者として、意図記憶手続きを用いた集団実験を行った。被験者には、小冊子に印刷された呈示文を読み、その文中に四角で囲まれた記銘語を覚えるように求めた。その後、自由再生テスト、再認テストの順に実施した。呈示文には記銘語が意味的にも統語的にも適合する文(CC文)、意味的には適合しないが統語的には適合する文(IC文)及び意味的にも統語的にも適合しない文(II文)が用いられた。結果は、6年生では、CC及びIC文中に呈示される記銘語の記憶成績がII文で呈示された記銘語のそれよりも高く、大学生では3文間に記憶成績の差はなかった。この結果は、6年生は呈示文の文脈をとらえて活性化領域を限定するので活性化を限定しにくいII文での成績が悪くなったが、大学生では、呈示文の文脈にそれほど依存することなく記銘語の活性化領域を限定できるので、3文間に差がないと考察された。実験2では、小学2年生を被験者として、個別の意図記憶実験を行った。その結果、2年生ではCC文で呈示された記銘語の成績が最もよく、IC文とII文の間には差がなかった。この結果は、2年生では記銘語の活性化拡散を限定するには意味及び統語的限定性の両方が必要であると考察された。実験3では、遅延再生テストによる記憶成績の査定を行った。その結果、大学生でもCC文及びIC文で呈示され記銘語の記憶成績がII文で呈示された記銘語のそれよりも良くなった。大学生では、直後再生では3文間に活性化水準の違いがないが、遅延再生において全体的に活性化水準が低下すると文間の活性化限定の効果の違いが生じやすくなると考察された。
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