記憶を規定する活性化拡散領域限定仮説(Constraints on Area of Spreading Activation;略してCASA)仮説を提唱し、この仮説の妥当性を検討した。この仮説の主な前提条件は「意味記憶内での記銘語からの活性化の拡散によって記銘語自体の活性化水準は低下するが、文脈によって活性化拡散をある領域に限定できれば、記銘語自体の活性化水準は再生不可能な水準までは低下しない。」というものである。 実験1及び2では、記銘語に対して意味的限定性の強い文脈を呈示する場合が、弱い文脈を呈示する場合より正再生率が高かった。実験3では、記銘語と同位水準にある語を呈示する場合が、上位水準になる語を呈示する場合よりも記銘語の正再生率が高かった。実験4及び5では、記銘語の品詞と同品詞の語を呈示する場合が異品詞の語を呈示する場合よりも正再生率が低く、異品詞の語による統語的限定を示した。実験6では、記銘語からの自由連想課題を用いたが、活性化が拡散しやすい両方向連想条件が1方向連想条件よりも、実験7では、自由連想語に上位水準の語が含まれる場合が含まれない場合よりも、実験8〜10では、連想された語の品詞が記銘語と異なる品詞である場合が同じ品詞である場合よりも記銘語の正再生率の高いことを示した。 実験11及び12では、CASA仮説を発達的に検討し、小学2年生では意味的限定性の強い文脈をとらえて符号化できないために活性化拡散領域の限定ができないが、小学6年生ではそれが可能であり、大学生では、意味的限定性の弱い場合でも自発的な限定が可能であることを示した。実験13及び14では、小学6年生は文脈の限定性により活性化拡散領域を限定するが、大学生では文脈にあまり依存することなく、活性化拡散領域を限定することが示された。上述した14の実験から、全体として、CASA仮説の妥当性が示された。
|