研究概要 |
本年度は分析視角の再検討,東アジア企業家層形成の歴史的諸条件と形成過程の分析を行った。一連の分析は,歴史的文献資料に依拠する方法をとった。 分析視角の再検討については,東アジアの企業家層の歴史的形成を考える場合,世界システム論の視角が基本的に有効なことが明らかとなった。しかし,従来,この視角では軽視されがちであった個別社会の内的条件も,並行して考察することが不可欠と認められた。このことを歴史的形成過程から具体的にみるならば,企業家層の源流となった社会層をとりまく内的条件として,歴史的な支配制度が重要であり,さらにこの条件が,近代世界システムへの対応のなかで企業家層の特質の相違を生じさせていた。 歴史的支配制度として,中国は完成された世界帝国的家産制,日本は領邦分立のもとでの封建制度,韓国・朝鮮は,いわば土俗的家産制と位置づけられた。こうした支配制度の相違はまた,支配者層および商人層の生活理念にも反映しており,日本では儒教とならんで仏教の影響が大きく,中国の場合には新儒教的指針が重要制をもっていた。一方,韓国・朝鮮の場合には,朱子学の大きな影響が認められた。この生活理念の相違は日本と中国での経済活動の活発化,韓国・朝鮮でのその制約化と親和的であった。 近代世界システムとの対応のなかで,歴史的支配制度の決定的な相違を背景として,日本では産業資本家が容易に形成されたのに対し,中国では経済活動の活発化が買弁資本家の形成とむすびついていた。一方,韓国・朝鮮では前記の制約化のため,世界システムへの対応そのものの遅延が生じたと考えられた。
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