東アジアの経済発展が急速に進展するなか、儒教文化圏のような東アジアの歴史的個性に着目した社会変動の議論がみられはじめている。しかし、こうした議論は、東アジア諸国の歴史的相違の理解を欠き、世界規模での資本主義システムとの関連をあまりに軽視しているために、その妥当性に疑問があるといわざるを得ない。 そこで本報告では、社会変動の担い手として東アジアの企業家層に着目し、企業家の類型化を形成をめぐる歴史的前提諸条件、経済活動の内的動因についての比較検討を行った。こうした一連の目的は、東アジアの視点に立った新たな社会構想を模索することにある。本研究で得られた主要な知見は以下の通りである。 1.東アジアの企業家について、支配層との関係、商業との関係、外国との関係から官僚企業家、紳商企業家、商業企業家、買弁企業家という四類型が得られた。 2.企業家類型を決定する要因としては、各国や地域における歴史的前提条件の相違が決定的であった。具体的には、史的支配形態および近代世界システムへの対応の相違であった。 3.企業家層の活動の指針・動因について、儒教文化ということでは理解不可能であり、奢侈への志向、人生の挫折感などが直接的なそれとなっていることが明らかとなった。 4.東アジアにおける歴史的個性にもとづく社会構築にとって、反システム運動、公共の論理、永続性の重視ということに着目する必要があることが主張された。
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