本研究は、「民俗(フォークロア)」というものが、いかなる形でその共同体の成員の認知や思考(知覚・感情・価値観)を形成・醸成していくのか、認識の発達におけるフォークロアの機能や、フォークロアの与える価値・情動生成のメカニズムを、新潟県佐渡郡相川町ほかにおける民俗学的なフィールドワークから、これを考察した。当初の計画では専らインタビューの対象を子どもに限定し、子どもたちがいかに文化や社会を摂り込んでいくのか、文化の内在化の問題を命題化したが、小学生の段階では大人(共同体側)の文化とは無関係な位置にあること、今日では中学生段階でいわゆる「郷土教育」のなかで、「郷土」が自覚化されて、摂取されていくこと、また今日では認知や思考を形成していく情報が、村落共同体よりもマス・メディアを通じた国民国家レベルからのものの影響が大であることが次第に明らかとなり、フィルド・ワークに則して、「民俗」「郷土」「情報」の諸概念を再検討し、またそれらと共同体意識(認知や思考)の関係について再考を図った。特に、今日ではより重要な価値観意識であると思われる、村落共同体を超えた「自然」でない「郷土」意識というものが、いかに生成されるかに関し、戦没者慰霊の事例を中心に議論した。村落共同体レベルで固有と思われている「民俗」も、現代においては国民国家レベルの再編成を受けているのであり、子どもたちの認識や思考も、そのレベルで統合されていることが一つの結論として明らかになったといえる。
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