本研究で目標としていたのは大きく分類すれば二つある。一つは、日本におけるアフリカ音楽とアフリカ文化表象を関連づける研究の方向性を明確にすることである。アフリカ音楽に関しては学術的な言説と商業的な言説が存在する。前者は文化人類学的な研究が多いが基底にあるものは「音楽」としてよりも「音文化」として文化の中に埋め込まれている「音」のあり方を提示しようとするものであり、その視点から逆に「音楽」という概念自体を相対化しようと試みるものである。私見では川田順造を中心とした研究が特に西アフリカを舞台として精緻な形で実施されこの分野での実績をあげているが、他の民族音楽の研究の多くは民族の音文化、民族音楽は多様であるとしながらも安易な文化相対主義的な立場を前提としている印象は否めない。かつてE.リーチが「蝶の収集」として揶揄した文化提示の方法が民族音楽の映像やテキスト資料の内部に亡霊のように生き延びているという印象を受けた。むしろ商業的な効果を意識しつつもアフリカの音楽を日本に紹介してきた中村とうようを中心とするアフリカ音楽の捉え方のほうが現在のカルチュラル・スタディーズ(Cultural Studies/文化研究)を先取りしているようで興味深い。日本でアフリカ音楽を聴くこと・演奏することの意味が主題化されるような研究を推進することの必要性を痛感した。 本研究のもう一つの目標は基礎的な資料の収集とデータベースの構築にある。基礎的な資料はほぼ揃いデータベース化も進んでいる。当初予定していたインターネット上での資料の公開は現在のハードウェアの性能、ネットワーク上の著作権や盗用の問題、プレゼンテーションの形式など複雑な問題が錯綜しているため今後も慎重な検討を必要とする。資料の徹底化及びネットワーク上での資料公開の方法を明確にするという課題が残った。
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