平成七年度は、流行歌を重点的に考察した。購入した『戦前・戦後歌謡曲全集』(昭3〜29の範囲を収録)、『歌謡曲黄金時代』(昭27〜44の範囲を収録)の2セットと、すでに持っている『昭和の歌 511』、放送局の知人を通じて入手したテープなどを基礎資料として、歌詞、曲の分析を進めた。現在、注目しているのは、節目としての昭和39年前後の時期である。社会動向としては、東京オリンピックに向けての都市開発・整備が一段落し、都会では人余りの現象も出始め、当然、帰郷傾向、望郷志向も表面化してくる。流行歌の世界でもそれに連動する動きが見られるのである。しかもそこには、音楽をめぐる環境の変化(プレイヤー等の機器の技術革新、ディスクジョッキー等の活発化、ビ-トルズ等に代表されるグローバルな音楽流行の流入)という要因が重なってもくる。 こうした多面的・多層的変化の総体を見失わぬよう、目下、追跡中ではあるものの、いまだ書斎での研究・考察のレベルを十分に脱しきれているとはいえない。音楽資料収集一つとってみても、市販のCD全集類だけでは十分でなく、といっていわゆる芸能マスコミの世界に助力を求めていくと、今度はジャーナリスティックな仕事とどこで一線を画するのか、という難問にも突き当たる。資料収集についで分析においても、力不足を痛感させられている。いわゆる文学・文化研究者に必要とされる能力以上の、あるいは別種のそれが要求されているからだ。特に音楽の技術的分析は、研究補助者の助力にある程度は期待できるとしても、消化・吸収がすでに容易ではないという事情がある。ただ総合的に自己評価すれば、以上の問題点はあるにしても、少なくとも机上レベルでは、前述のごとく問題の所在は次第に明らかになりつつあると総括してよい。
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