平成八年度は、二方面に研究を進めた。 ひとつは、科研費によって購入した『戦前・戦後歌謡曲大全集』(昭3〜29の範囲を収録)、『歌謡曲黄金時代』(昭27〜44の範囲を収録)の2セットと、すでに持っている『昭和の歌 511』、放送局の知人を通じて入手したテープなどを基礎資料として流行歌の分析を進めた平成七年度の成果を、まとめること。 もうひとつは、対象時期を近代全体にまで拡げつつ、<望郷>という情念の追究・解明にとどまることなく、<望郷>を基底から支えているにちがいない<回想><追憶>という行為の仕組みの解明にまで踏み込むこと。 前者については、『望郷歌謡曲考』という本を近日中にNTT出版より刊行する予定であり、これでひとまず終止符を打つこととする。後者については、回想や追憶という行為の科学的究明を推進した心理学の発展史を再評価することで、それらの営みが明治時代の末期以降次第に浸透してくる過程を解明できるのではないかと目論んでいるが、本格的な取り組みは次年度を期したい。
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