研究概要 |
平成7年度の主たる研究目的は基礎的資料、文献の収集と大ざっぱな分類、整理であったが、若干の文献が入手できなかった場合を除けば、そのどちらに於いてもほぼ順調に計画が推移していると言っても良いようである。その経過の中で、Henry LyteのA New Herball(1578年版、東大理学部所蔵、1619年版、国際日本文化センター所蔵)とJohn GerardのThe Herbal(1597年初版)との比較から、内容、形式共に両者の類似が予想以上に顕著である事が判明した。詳細な点はこれからの研究の課題であるが、これらの2冊がエリザベス朝の植物学、のみならず人文学の領域に与えた影響の大きさは計り知れない。この文学界への関与については、Shakespeare,Spenserの作品へのそれらのHerbalの強い影響力の可能性を指摘する学者がいる。(例えば、Mat Ryden: Shakespearean plant Names,1978,さらに、Agnes Aber:"Edmund Spenser and Lyte's New Harball",in Notes and Queries,1931,pp.345-47参照)また、1995年末には、William TurnerのA New Herball(1551年 第1部、1562年 第2部初版)がほぼ4百年ぶりにケンブリッヂ大学から出版され、イギリス植物学の父と呼ばれるTurnerの作品が漸く日本でも入手可能となった。これも、これからの詳細な研究対象となるべきものであるが、これまで大まかに把握された所では、その記述から、それまでの中世的色彩の濃い本草書の特質される、DioscoridesやGalenusなどの古典の単なる同定作業や、焼き直しではなく、彼自身が実地で客観的に観察、検証した形跡が顕著である事、同時代の大陸の植物学者との密接な関係がある事などが特徴的である。従って、これからの研究に当たっては、英国内での本草学の発展をたどると共に、大陸での学問との関係を調査する事が将来的に必要とされるであろう。
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