日本語において空主語を含む文の中から心理実験に使用するための文を24個選び出した。実験に用いた文の概略を述べると次のようになる。 (1)太郎が花子に[<空主語>東京へ行く]ことを自慢した (2)太郎が花子に[<空主語>東京へ行く]ことを命令した 被験者の左(右)の耳から実験文を聞かせ、反対側の耳に刺激語(例えば、主語の「太郎」や目的語の「花子」)を与えて、どちらが優位な反応を引き起こすかを調べた。これは、刺激語の干渉効果を観察し、リアルタイムでの統語解析の様子を明らかにすることが目的である。 文末から300msec毎に6個の計測点を設け、反応時間と正答率にどのような変化があるのかを調べた。被験者は8名。九州大学の学生で、日本語の母語話者。実験時間約50分(途中5分の休憩)。千円の報酬。 この小規模のパイロットスタディを行った結果、主文の主語が補文の主語と同一であると考えられる文の反応時間が他のものよりも優位に早かった。このことから、日本語の統語解析(特に、空主語の処理)は文の意味を決定できるような情報が現れるまで待ってみるという「遅延モデル」や、すべての可能な統語構造を全て同時に行うという「並列処理(parallel processing)」のモデルによっては説明できないことが明らかになった。 翌年度は、実験文の変換、文末に至る途中での反応時間の計測等を考慮した実験を行いたい。
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