本研究は、言語発話と発話時における頭部の前後運動を加速度の視点から分析し、音声教育における身体の役割の重要性を検証する基礎研究であった。健常者と障害者の音声言語および加速度のデータベース化を行ない、健常者の外国語教育と知的障害者の言語訓練を身体から実践する概念形成を行なった。 平成7年度に予定した身体重心の動きと発話のプロソディの研究は、計測上の諸問題と予算的制約により実行不可能となった。従って頭部運動の加速度と発話を同期させる計測機器を開発し、両者の関連性を追求する様々な実験が行なわれた。その結果、本研究代表者は、POP(Posture Onset Time)という新しい概念を規定した。この概念は頭部運動の加速度起点から音声発話時までをms単位で表示し、頭部運動と発話のどちらが先行するのかを明確化した。 ジェスチャーを研究する学者達の中では、『身振りがことばに先立つ』とする考え方が支配的であり、kendon(1980)は脳のなかで思考を音声言語に変換する過程よりも、思考が身振りのチャンネルを作動させる過程のほうがより容易に速いスピードで進行すると推測している。 2年間の萌芽的研究は、ケンドンらの身体と言語発話の関連をさらに細分化した。喜怒の感情要素がある場合は、頭部運動が発話に先行し、感情要素が無い場合は、頭部運動と発話は同時か発話以後にずれ込むことが、統計的有意差をもって証明された。
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