本研究は、冷戦解消後の国際社会における国際連合安全保障理事会の活動を国連憲章第七章の観点から批判的に検討することを目的とした。具体的には、(1)湾岸戦争におけるイラクに対する制裁の発動そして武力行使の容認決議(決議678)の採択、(2)イラク北部におけるクルド人救援のための介入(決議688)、(3)人道救援活動に従事する平和維持軍への限定的な武力行使の許可(ソマリア、旧ユ-ゴ)、(4)旧ユ-ゴにおいて国際人道法の重大な違反を犯した個人を訴追するための国際裁判所の設立(決議808)、(5)ロッカビ-事件におけるリビアへの制裁の決定(決議748)における国際司法裁判所と安全保障理事会との権限関係等の多様な問題を対象として、研究を進めてきた。 本年度についても、上記の多様な領域について総合的に資料の収集および検討を行なってきたが、具体的な成果に結び付くものとしては、第一に上記の(2)と(3)に関わるものとして、冷戦解消後の平和維持活動の展開と変容の問題がある。冷戦解消後に顕著となった国内紛争においては、人道援助活動の保護という従来は対象としてこなかった任務を遂行することになり、平和維持活動は、武力の行使・平和強制に踏み込むことを余儀なくされる場面が増えてきている。しかしこれが、平和維持活動の基本原則および人道援助活動の公平性等の原則と十分に両立するか否かは、必ずしもあきらかでない。また、上記紛争においては、任務が多様化し、第二世代の平和維持活動と呼ばれるような性格を持ってきている。このような活動において、冷戦下の平和維持活動の基本原則が維持できるかも明らかでない。第二に、上記の(4)にも関わるものとして、平和維持活動および強制行動への国際人道法の適用可能性の問題がある。これは、平和維持活動等が武力の行使に踏み込む結果として出て来る問題である。これらについては、いずれも、11に示すように発表される。
|